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B A C K    T O P    N E X T                                        

  3人目 ・ ・ ・ ミツの話   


「 戻せたら、いいのに。でも、どこまで…? 」



 シラタマが話終える直前に、寝室に入ってきたミツはドアにもたれて話の結びを聞いていた。
カラスが言う。
「俺はもう話したので、次は密さんにお願いしようかな。」
ミツは、困ったように眉を下げた。
「あたし、いつもうまく話出来ないのよ。だから、話をしろって言われるといつも、困ってしまうのよね。」
それは砂鳥にねだられる度に繰り返して来た言葉だったので、皆に聞き流された。
そして、じっと見つめてくる砂鳥の視線を感じながら、ミツは口を開く。


…。
祖母が、昔、京都の東山のほとりにある寺で修業をしていた事があったの。
幼い私は、時々それにくっついていったのだけれど、そこの庵主の尼さんは、とても立派な方だった。
世が世なら、相当な身分のある人だった。そんな人達が大勢いた様子だったわ。
あたしはそれを見て、「俗世間を逃れる覚悟の人が、自分が誰だか、他人には解らないように隠れているのだろうか」と幼心に思ったもの。
立ち振る舞いが上品で、普通の人だとは思えなくて、どんな素性の人か知りたくなるくらいだった。
だから、障子に穴をつくって、覗いたことがあったわ。
そしたら、とても澄みきった印象のお坊さんの方が数人、座っていた。そして、その中にとても綺麗な女の人が、何かに寄りかかるようにして座っていて、傍に居たお坊さんを呼んで何か言っていたのよ。小さな声だったから聞き分けられなかったけれど、「尼になろうと思う」って相談していたのだと思う。お坊さんはすぐには頷かず、躊躇っている様子だったわ。それでも女の人は必死にお願いしていた。その懇願に堪えかねて、お坊さんは「それほどおっしゃるのなら」とその人を尼さんにしてあげていたわ。
髪を切って、服を着替えさせたの。
その服はとても質が良い着物で、切られた髪も手入れがしていたのか、艶々していて綺麗だった。そして、その女の人の傍に居た、女の人よりも若いけれど、良く似た女の人は泣いていた。
多分、その人の妹だったのね。
だからか、あたし、思ったわ。

出家するという理由はわからないし、俗世間を離れ棄てるのは誰かもわからないけれど、その様子を見ているだけでも涙は止まらないでしょう。せめて、誰かわかればいいのに。と。
それが伝わったのかしら。ちょうど妹さんと目があったの。
後で、話す機会があったのだけれど、その話し方もとても上品で、優しかったわ。
あたし、色んなことを言ったけれど、言ってから、言わなければ良かったなとしみじみ反省したもの。



… … … 。
… … 。
… 。










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